小説「ペインレス」を手にしたときと、アニメ「キズナイーバー」を教え子にすすめられました。
 両方とも心と体の痛みがテーマです。このタイミングは…ちょっと不思議…。



 アニメ「キズナイーバー」の主人公の少年、阿形勝平(あがたかつひら)は体の痛みがなく、理不尽な暴力にも抵抗しようとしません。学校に謎めいた少女、園崎法子(そのざきのりこ)が転校してきて、なぜか勝平にからんできます。

 法子は学校の七人の少年少女が、痛みを皆で分け合うという「キズナイーバー」になり、夏休みの間、実験を行うと告げます。
 その目的は一人の痛みを皆で分けることによって、理解し合い、平和な世界はできないかということでした。法子も含めた8人の少年少女を中心に話が進みます。


 自分が殴られると痛みは減り、他の子は何もないのに急に痛みを感じます。分散しているのでひどくはないですが。そして、体の痛みだけでなく、心の痛み迄共有するようになってしまいます。一人が失恋すると他の子にも伝わってしまう。秘めておきたいことまで共有するのは…きつい。

 実験はこじれる前に終了します。その後もキズナイーバーだった少年少女たちは反発しながら友達としてつながろうとするストーリが続きます。

 やがて、勝平がどうして体の痛みがなくなったかの謎がわかります。

 勝平は幼いころに同世代の子供たちと、同様の人体実験の被験者の一人だったと明かされます。彼は忘却していたわけです。

 その時の実験で、皆の痛みがある少女一人に集中してしまう現象が起きてしまいます。
 急遽、実験は打ち切られました。その少女こそが法子であり、今も彼女は痛みを集めており、その激痛をおさえるため太い注射を打ち続けています。勝平の痛みは今も法子へ移っている…。

 ところが、法子はそれら痛みを拒否しません。彼女はとても孤独でした。皆の痛みを集めることだけに自分の存在価値を見出し、幼いころの人体実験の失敗を認めません。そこからまた新たな事件が起きるのですが。

 興味深いのが、過去の実験の被験者たちが痛みが無くなったら、感情がなくなり抜け殻のようになってしまったことです。彼らは社会復帰ができず現在も実験施設に保護されています。その中で辛うじて社会復帰できたのが勝平でした。

☆☆☆☆

 確かに痛いとか辛いとかはいやだけど、これを感じることは生きていることなんですね。こういうことはあまり考えたことはありませんが…そんなことを考えさせてくれる良質なアニメです。

 




 小説「ペインレス」は生まれつき心の痛みがない女性、万浬がヒロインです。心の痛みがない人は社会から疎まれ、精神病院などに隔離され、あるいは自殺する現状があると語られます。

 小説には登場しませんが、医療関係の友人から聞きましたが、生立ちで辛い目にあい、心の痛みがなくなって育つ人もいるそうです。

 万浬が幼いころ母親は他界します。父親は再婚し、妹が生まれます。

 祖母により万浬は社会に適合できるように理性的に育てられます。しかし、恋をされても独占されるのを嫌い、手ひどく相手を切り捨てます。

 妹はそんな姉が奔放に見え憧れ、姉の手ひどい行動を踏襲しますが、その代償は大きく、精神に異常を来たしてしまいます。父は姉妹を会わないようにしなかったことを後悔し、継母は万浬を怖れ何年も会わない状態が続いてます。

 祖母は学者で、万浬の精神構造を熟知しているので、「私が死ぬときは悲しんだふりをしてね」と頼み、死後の身じまいを万浬に託すなど冷静に接します。

 彼女は自分はどんな存在なんだろうと追求しつづけます。

 事件に巻き込まれて体の痛みを失った男性に興味をもち会います。

 また、家族を皆殺しにした元少年犯罪者が、自分の仲間ではないかと会います。
 通常、少年犯罪者はプライバシーが守られているので会うのは困難ですが、彼女は心の痛みがないからこそできる手段で会います。彼女は元少年を思考の幼い人間で、会いたい同類の人間と違うと判断します。

 その後、心に痛みを感じない理性的な人間、亜黎(あれい)が存在したことをしります。すでに彼はいませんが、彼に多大な影響を受けた人から話をききます。

 ここで万浬の行動の動機が語られます。
「...ただ自分のほうが本当に異常なのか、なぜ周囲の者と同じ感覚を持たずに生まれたのか、それは生物学的に意味があるのかないのか・・・幾つもの疑問に対する答えを求めてもいました。また、自分のような存在がほかにもいるだろうかという好奇心もありました。あるいは死を選ばすにいたのは、亜黎さんほど賢くなかったからかもしれません。一方で、時代の変化もある気がしています。その度合いなりも、狭く、低くなっているのを感じます。つまり、わたしが自分のことを特別と感じずに済み、周囲からさほど特別視されずに済む状況が増えています」

亜黎の存在を教えてくれた人は
「それは・・・亜黎のような人間が生まれる可能性が増えている、ということかね?」と問います。

 万浬は
「逆でしょう。自分の痛みに敏感になり過ぎて、意識的に、また無意識に、わずかな痛みも遠ざけたい、という心理が働いているのだと思います。そのため他者が痛がっているのを見聞きすると、同情するのではなく、不快に感じる。なぜ我慢しないのか、なぜこっちにまで痛みを押しつけてくるのか、と。痛みを外へ向かって訴えかける人間や集団には、苛立ちのあまりに攻撃的になることさえある。だから、互いの痛みを理解し、より痛みの少ない社会の構築を目指すこととは逆に、自分たちを取り巻く状況に対して、恐れやおびえだけで反応することが常態化しつつある・・・亜黎さんの言われた進化の芽を育てるのとは、明らかに反対方向へ後退しています」

 さて、祖母が他界し、その遺産のことで父親が久しぶりに万浬に会いに来ます。
父は娘に通じないと知っていながらも苛立ち、、こう言わずにはいられません。
「...きみが新しい人間のモデルだとか、心に痛みを感じない人間が増えたら世界はよい方向へ変わるなんて考えに、根拠があるかね?いまの世界のとげとげしさだって、実は心に痛みを感じない人が増えてきているからこそなんじゃないのか」

すると、万浬は
「痛みを感じない人が増えているのではなく、自分の痛みを理解してほしいと、心の内で叫んでいる人がふえているからでしょう」と応じます。

 そして、祖母の遺言を淡々と遂行します。この動じなさはちょっとうらやましい…。

 世の中がますます悪くなっているのは、むしろ痛みを感じる人こそ、他人の痛みに自分は巻き込まれたくないので、見ないふりをする人が増えていているからだと著者は万浬に分析させます。

 …厳しい内容です。


 小説「ペインレス」は心の痛みがない人たちを排斥する、痛みのある人間の無慈悲さを感じます。こちらの方は痛みを感じる側の人間に問題をつきつけてきます。

 それは「見ないふり」です。自戒をこめて…

追記:「ペインレス」は官能的な部分が多く、それを天童氏はTVで「作家の腕のみせどころ」とおっしゃってました。天童氏の作品でなければ終りまで読めたか…読んだ直後は何だったのだろうと考えたくなる…。ひと月近くたってからやっと自分なりに感じたことがまとまりました。本来なら共感しにくいヒロインに共感してしまう…やはり天童氏はすごい。



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