「不登校ほど、『きっかけ』と『原因』が混同される子供をわたしは知らない。
不登校には必ずきっかけがある。
友達にへんなことを言われた。
教室でいやな経験をした。
しかし、これはあくまで『きっかけ』であっても、
『原因』ではないことの方が多い。」
原因、すなわち問題の所在とは、
「みんなと仲良くしなければならないという大前提、これが原因である場合が非常に多いのだ。」
   小栗正幸著「生きづらさを和らげる対話術」より
                     ※みんなと仲良くについて「友達100人」も要らない 参照

不登校の対策として、この本はとても示唆に富んでいます。

小栗正幸氏は、法務省に所属する心理学の専門家(法務技官)として各地の矯正施設に勤務。宮川医療少年院長を退官後、(本書執筆時は)学校巡回に従事し、先生方に子供への接し方のアドバイスをしています。

経歴からも想像できますが、大変困難な状況下にある親や子供たちと多く接した経験をもちます。

でも、それだけではありません。
当ブログのほかのページでも触れましたが…
私はかつて小栗氏が教育テレビの討論番組に出演したのを見たとき、我が子の家庭内暴力に悩むお母さんたち個々への氏の接し方や口調にとても温かみを感じました。

この本も温かみがあります。

この著書には不登校について、原因は「親のせい」とはどこにも書いてありません。
更に、別な著書ですが周囲が言いがちな「親の愛情不足」という言葉を「不毛な言葉」とはっきり批判してます。
         ※親の愛情不足について「無神経な正論」へ反論 参照

本書は
日本の学校が共通してかかえる悩み、
学業不振、不登校、暴言や暴力、いじめや非行などを氏の視点から捉え直したときに見えてくるもの、それへの対話術と、小栗氏が巡回先の学校の先生に伝えていることを一冊の本にまとめたものです。

(補足)
 私がこの本を取り上げたのは学校へ戻すことの効果を期待したものではなく、最も大切な子供自身が自分で決めて自分で立ち上がるのを目指している点です。その結果、学校へ行くのはいいと思いますが、それ以外の道があっていいと思います。






もちろん、不登校についても多くのページを割いてます。

以下「 」内は引用です。


筆者の不登校への基本姿勢

「半世紀以上にわたって、不登校論議を交わしてこられた専門家には申し訳ない限りだが、『この50年以上、不登校の本質は寸分たりとも変わっていない。今まで交わされてきた不登校論議はとても高邁で、人間性に満ちたものだとは思う。しかし、どうも不登校の本質にヒットしていない。だから不登校は減るはずがない』というのがわたしの持論である。
後からのこのこ出てきてひどいことを言うなあ、と怒らないでほしい。白状すると私は団塊の世代だ。いわば不登校の人たちの推移との同居人である。そうした背景をもって言うのだから、これも年の功だと思って、わたしの話を聞いてほしい。」

…主旨は前半部分ですが、それだけだと厳しい言葉に聞こえてしまうかもしれません。それで長文を引用させていただきました。

今まで尽力された方々を否定したものではないと断りつつ…筆者は率直に意見を述べ始めます。

筆者は、
不登校を起こしやすくする[なにものか]をリスク(危険要因)と名付けます。

その数は不登校の研究者の数だけあるそうです。
現実に子供たちに会っていると、いろんなリスクが目に付き増えるもの無理もないと、筆者は同情しつつ…要因を大きく三つに絞り込んで論を進めます。

本書では起立性調節障害、生活習慣獲得不全、不定愁訴などのリスクは論旨を明確にするためあえて入れてません。                         
                  ※起立性自律障害についてはこちら

不登校の三大リスク 
(リスクが一つ乃至二つ以上合併する場合もある。)

①こだわり(決め付け)…不登校リスクでもっとも大きいもの 
「不器用というか、融通が利かないというか、
わたしたちなら何でもないようなことに『こだわって』自分を追い詰める。
結局課題は乗り越えられず不全感を募らせる」 

その課題はあまりにも当たり前のこと「わかりきった事柄」ばかりだから、逆に、支援指導が難しい。

「それが『みんな』の当たり前な(無意味な)課題ではなく、
『自分』の特別な課題になってしまうのが本書の主役たちである。
しかも、息苦しさを感じるが、それが何であるのかを洞察できない。」

②学業不振  
学業不振は自尊心の低下につながり、子供の学校生活への積極性や能動性を阻害する。
発達障害が絡むものもある。

③対人トラブル  
「不登校の『きっかけ』であって『原因』ではないことの方が多い。

不登校の人は元々自信がなかったり、被害感が強かったり、不信感が強かったりする人ではない。
そのかわり、コミュニケーションの力に課題をかかえている人が多い。」

コミュニケーション能力の課題とは…
     相手の考えていることを想像する力が弱い。「メタ認知」が弱い。

「メタ認知」
  筆者は専門用語は避けていますが、この言葉だけは使いたいと言います。
  それだけ重要なことと思われます。

 「メタ認知」とは…自分の姿を第三者の目線で客観的に見つめる、
          成熟した認知スタイルのこと。
     一般的に小学3年から5年生にかけて発達する。
     メタ認知があれば…
       子供は複雑な対人関係を処理でき、社会性がつく。
     例えば、
      「わたしは、いまこの遊びがしたい」
      「でも友達のAさんは、いまこの遊びをしたくないかもしれない」
       と分かる(想像する)ようになる。
     
メタ認知が未熟だと…
不登校の子は
「…クラスメイトの一人と意見が合わなくなった場面で
相手の立場とか思いを理解できず、
相手の言動に対して寛容になりにくくなる。
思いがけず教師から評価されなかったり、
友だちから注目されなかったりした場面でも同じことが起こる。」

「そうした状況は、だれにとっても不快なものであるが、
不登校になるような人は、相手との対人関係を通した解決が図りにくい。
(中略)あの『嫌な感じ』をずるずる長引きやすい。
長引けばその経験はゆがみの元になる。」

「不登校の子どもに自信欠如や被害感、不信感の強さがあるとすれば、
それは原因というより結果的な『ゆがみ』である場合がほとんどである。」


……う~ん。
私もあてはまりそうです。
人間関係で嫌なことがあるとその場面を何回も頭の中で反芻して切り換えられません。
やがて、自信欠如、被害感、不信感が…思い当る…。ひとりでいる方がラク。
中学生のとき、担任の先生が見かねて
自分が思うほど相手は気にしていないよと言われたことがあります。
当時は「そうかもしれない」と思いましたがあまり聞く耳をもってませんでした。
でも今も覚えている有難い言葉でもあります。




本書はこの後、
各リスクへの対応について述べ、「使えるところは使っていただければありがたい」と不登校対応の章へつながります。



対話術の方では、人との接し方、どう話したらこちらの話に耳を傾けてもらえるか、単に同調するのではなく相手が冷静に話しやすくする話の持っていく方法について、実例をあげながら述べています。
ああ、人間の心理ってこうなんだなと。どうしてそう言った方がいいのかそのマインドも説明してくれます。

対話術の要点をまとめようと思ったのですが、
本書の「気遣い」を反映させてまとめるのは難しいです。

興味のある方は、本書を読まれることをお勧めします。





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