トラウマの原因を思い出させる治療法があります。以前盛んにテレビでも、女優さんを使って放送されました。
 それは、トラウマに関する記憶は意識、無意識に消す、あるいは消そうとしているのが通常である。そのトラウマが無意識下で自分に問題を起こしている。だから、それを思い出し吐露することで正常の意識になれるという治療法でした。

 ところが、その治療法は、アメリカではとうに廃れた考え方だとこの本で初めて知りました。



 この本によると、その経緯は…

 1990年代、アメリカの精神科医学界にトラウマブームが起きました。ところが、医者から虐待が実際に無くても「あったという前提」で治療を受けていくうちに患者は「親に虐待を受けた」と思い込んでしまう、偽りの記憶が表れると心理学者リチャード・オフシーが告発しました。患者が親を訴えたり、訴えられた親が精神科医を訴える等の問題が起きるようになりました。

 さらに1997年に記憶研究者のエリザベス・ロフタスはトラウマ記憶を呼び起こす治療法が逆効果であると突き止めたそうです。むしろ、患者は悪化し、離婚、入院治療が必要になる、自殺、自傷行為を試みる人が大幅に増えたそうです。要はデメリットしかないと。

 この本では過去は肯定的にとらえた方が心の問題が解決につながっていくという考え方も紹介されています。 親に恨みを持っている人でも大抵何かしらいい記憶があるもので、自分は家族に愛されていたと気づけると。愛されていたならば、「私には生きる価値があった」と自己肯定感が増します。

 私自身も、悪いことを思い出すと追体験してしまい…体までも痛くなります。トラウマに関わるのは専門家に誘導してもらわないと危険かもと控えたのですが、この本によれば専門家でも逆効果だったわけです。それに、たまにですが、良かったことも思い出します。すると、確かに体がラクになります。悪いことは「言いたい」のに「言うな」と「抑えつける」のはいいとは思えません。しかし、無理に思い出す必要はありません。良いことを思い出した方が、たしかに元気になります。

 ところで、こんな話を聞いたことはありませんか。
 父親にさんざん困らされた母親が、父親が亡くなった後、いい思い出しか言わなくなる。子どもたちは「あんなにお父さんの悪口を言ってたのに…」とあきれる話です。それは、夫婦だからとか、単純に忘れたのではなく、終わったことを美化してしまうのは、これからを楽しく生きるための自然な防衛本能かもしれません。
 
 この本の他の章は賛否両論ありますが、この精神科関連の章は大変興味深かったです。

 悪いことは「わざわざ」思い出さなくていいと思います。


私と一緒に勉強したい方は