煽るような書名ですが、それにまどわされては勿体ない良書です。
 昨年、パリでテロ事件がありました。その頃、友達がパリから少し離れたところに滞在中でした。友達とのメールのやりとりも自然と国際情勢の話になりました。そのメールで教えてもらったのがフランスの歴史人口学者・家族人類学者であるエマニュエル・トッドの存在でした。

 トッドの本は日本では「売らんがためのキャッチ―なフレーズ」をつけられているとも教えてもらいました。そう教えてもらわなかったら私はこの本をスルーして読まなかったと思います。その友達に感謝します。

 この本のもっともよいところは…
 私は歴史を学ぶとき、無意識に現実と切り離してとらえてました。昔は戦争があったとか、暴君がいたとか、民主主義がなかったとか、あたかも物語のように当事者感が全くありません。しかし、このトッドの本を読むと否応なしに自分もその歴史のうねりの中にいると実感します。そう感じることがこの本の真骨頂です。それは現在の時事問題を各国の国民性を絡めてわかりやすく的確に分析しているからだと思います。トッドの分析は現実になったものも多々あったそうです。

この本は…
 形式はインタビューにトッドが自分の考えを述べる形をとっていますので読みやすいです。しかし、翻訳もの独特の読みづらさもあります。ぼおっと読んでしまうと「あれ、何がこうなるだっけ?」と主語を探しに戻ることもありました。
 本の口絵にヨーロッパの地図がのっています。それは、「ドイツ帝国」傘下の国がその「隷属」の程度によって色分けされてます。ヨーロッパの国々は経済的にドイツの傘下に入っています。それが口絵でイメージしやすくなります。ヨーロッバのほぼ全土に及んでいるので「ドイツ帝国」と呼ぶわけですね。

具体的な内容に少し触れたいと思います。
 現在も進行中の出来事…ウクライナのロシア”侵攻”についてのトッドの見解が興味深いです。
 先の口絵ではウクライナの「隷属」の度合いは「ドイツ帝国」に”併合途上”に色分けされてます。ドイツから見たウクライナの魅力とは、教育の程度が高いので良質な労働力があります。しかも安価です。ウクライナはロシアと争う価値があるわけです。日本の報道は、アメリカ合衆国やヨーロッパの側のものだけです。昨年インターネットのニュースでウクライナ訪問した鳩山由紀夫元総理大臣の話を聞きました。それによると日本で報道されているようにロシアが強引に占領した様相ではなかったそうです。もっとも日本のマスコミは鳩山氏に取材をしようとせず、訪問したこと自体を大々的に叩きました。ところが、トッド氏のウクライナ問題の分析によるロシアとドイツ(軍事はアメリカ担当でドイツは陰にいて見えない)のウクライナでの計る指標は、人口学のデータが一番信頼できるということでした。
 
 経済や会計のデー関係を読むと鳩山氏の談話が的外れではないとわかります。

 興味深かったのは、国力をタは簡単に捏造できると述べています。そういえば、ギリシャ経済が財政破たんした時、EU加盟前にギリシャの提出した財政データは、「EU加盟できるように」捏造されたものだったと露見しました。
 
 対して、人口学データはきわめて捏造しにくいと述べています。それは人が出生届を出してから死亡届を出すまで、その節目節目に整合性のあるデータが表れるからだそうです。
 1976年、ソ連はは乳児死亡率が再上昇し、当局はその最新のデータの発表をやめました。乳児死亡率の再上昇はその「社会の一般的劣化の証拠」なので、筆者はそこからソ連の崩壊が間近だと結論できました。

 現在のロシアを人口学からみると…乳児死亡率が低下し、出生率が上昇(2013年 ロシアは1.7人、フランスは2.0人、因みに日本は1.43人)また、女子の大学進学率は(100人の男子に対しての女子の人数)ロシアは130人と女子のほうが上回っています。(1位スエーデン140人、3位フランス115人、4位アメリカ110人、4位ドイツ83人)。ロシアでは女性は子供を産みやすくなりつつあり、その地位が高いと推測できます。さらに、人口の流出よりも流入の方が多いので、ロシアは周辺の国から魅力的であると、本書によれば「大多数の国民から暗黙の支持を受ける体制」であると述べられています。今まで持ってたマスコミのロシアのイメージとずいぶん違います…このように根拠のある分析は本当に重要だと痛感します。

 表題からドイツ批判の本にみえますが、(インタビュアーもそこを何度もつっこんでます。)著者は否定しています。ドイツは「強く言えば」軌道修正できる国だ。ただ、第二次世界大戦のヒットラーの台頭は今もヨーロッパ各国のドイツへの対応に大きく影を落としています。暴走したドイツを知っていると、それがドイツへの恐れとなって強く言えないのではないかと危惧しています。
 読んでてコワかったのは、ヨーロッパは1930年代からドイツを中心にしてリセットするようになったのではないかという言葉でした。
 それらのことはリアルタイムで進んでいることで、自分も歴史の当事者だとも思えました。

 



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