この本は日本の現代史について述べています。
内容は大きく二部にわかれます。
  第一部「明治の日本の始まり」は明治時代初期。
  第二部「戦後日本の道のりと現代」は第二次世界大戦敗戦以降。
 現代の日本の教育と他国との関係に的を絞ってます。わかりやすい文章で小中学生向けに書かれたようですが大人にも示唆に富んだ内容です。


 第一部では、日本の学校教育の成立の背景が福沢諭吉の「学問のすすめ」を引用しながら詳しく述べられています。

 第一章の「なんで学校に行かなくちゃいけないの」…

 「学問のすすめ」の有名な「天は人の上に人を造らず、人の下に人を造らず」は平等を言っているとばかり思ってましたが、福沢諭吉の真意は全文を読み通すとまったく違うものだと初めて知りました。
この本の主旨は「人間は平等ではない。学問をしたものが裕福になり、勉強しないものは貧しい下人になる。だから勉強しなさい」というものであると…。

 江戸時代、武士の子は武士に、農民の子は農民に、商人の子は商人になる…だからそれに役立つ実学だけを学べばいいというのがふつうでした。ところがそれらの身分を乗り越えられると説く「学問のすすめ」は画期的な存在でした。当時のベストセラーになったそうです。しかし、それは表向きだけのことだったようです。

 学校は「国を強くするため」の国策で誕生しました。

 江戸時代、農民は戦争で闘うのは「武士の役目」で自分たちは関わりませんでした。このような農民に武士のような忠誠心はありません。明治維新の頃を描くドラマでは「農民も武士と同じに戦えるんだ!」と希望に燃える農民出身の若者がよく登場しましたが、あれは稀有な存在だったのかもしれません。ドラマとしてはおもしろいですが。

 当時のヨーロッパは植民地主義でした。
 そのようなときに、忠誠心のない農民たちは国にとって困る存在でした。
 国家に忠誠を誓い、国のために他国と闘うことをいとわない人間に育てることが当時の急務でした。
福沢諭吉は他の著書で「国の権威で子供達を学校へ行かせるべきだ」と述べているそうです。

 ただし、教育が普及したとき、最も恐れるべきは「学があって貧しい者たち」です。

 理由は…「その中から国家に不満を持つ者がでてくる。その者が国に平等を要求するような社会運動が起こすのを防がねばならない」ので、その芽を摘むためにあらゆる人に忠誠心をもたせることも学校の大きな役目となりました。

 その一環で「教育勅語」が作られ、国への忠誠心の大切さを子供たちに暗唱させます。

 この本のよさは、当時の状況を踏まえた上で、どうしてそのような道を選んだのか、読んでいるあなたは「どう思う?」と考えよう、とを促しているところです。


 学校の誕生した時の、システムは子供の個々の個性を伸ばすことは無視していることがわかります。
「皆同じ」が良く、「他と違う」ことを恐れ、「変わっている」という言葉は悪口と同義になる感覚が思考の底に埋め込まれます。

 ところで、日本の義務教育は英語の「Compulsory Education 」の翻訳で、始めは「強迫教育」と訳されていたとありました。改めて調べたら、Compulsoryの訳は強制・義務とありました。「強制教育」とも訳せます。ちなみに「勉強」という熟語も「強いて勉める」と読めるので…これもかなり強制的なことば…。

第二部「戦後日本の道のりと現代」は

 サンフランシスコ平和条約を締結した当時の経緯が詳しく述べられています。それにより行われた日本の戦後補償のあり方を検証します。日本が第二次世界大戦で進軍、占領した国々の現在も続く日本への対応がどうして、そうなったのかが分かります。そこには戦後に始まった冷戦、アメリカ合衆国と日本との戦略的関係が大きく影を落としています。これを知ると現在のニュースの見方が変わります。


 近隣の各国は現代史について学校教育がなされてますが、日本では学ぶ時間がほとんどありませんでした。

 最近、それを反省し、学校で現代史の授業を独立して行う方針が出たと聞きます。しかし、現代史はまだ利害関係者が多く、客観的判断は難しいです。否、どれが客観的なのかさえ、判断がつけられないと思います。

 教育はこわいです。子供時代に身についた価値観は大人になっても抜けません。

 現代史の授業は今、分かっている出来事を時系列に挙げてどう読み解くか、「自分自身で思考することの大切さ」を伝えることがもっとも重要だと思えます。

 歴史の解釈は学ぶ時代によっても変わらざる負えないです。
 アメリカは日本と違って一定年数がたてば、機密資料を公開する制度があります。新しい資料もこれからもどんどん出てくるでしょう。それによって歴史も更新されます。この本でさえ私の読んだのは2003年版ですが、増補改訂版が2011年に出版されています。今読むなら後者の方がおすすめですね。

 大変読みやすい本ですぐに読めますから、興味のある方は読んでみてください。



私と一緒に勉強したい方は